弁護士コラム

第10回

「派遣社員と退職」及び「派遣社員の退職と損害賠償」について

公開日:2024年4月18日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをコラムにします。

さて、コラム第10回は、「派遣社員の退職代行及び損害賠償の可能性について」について書きたいと思います。

目次

派遣社員と言っても、色々な職種があります。最近では、一般事務だけではなく、建設現場の監督、工場勤務、SESなど、多種多様です。
その際に、一番目に多いご質問として、「派遣社員でも、退職できますか」というご質問と、二番目に多いご質問として、「派遣社員の場合に、退職したら、損賠賠償されますか」というご質問が多いです。
今回、一番目と二番目に多いご質問について、順次、わかりやすくご回答させて頂きたいと考えております。

1.派遣社員でも退職できますか?

まず、一番目の「派遣社員でも、退職できますか」というご質問についてご回答をさせて頂きます。

派遣社員の中には、ほかのコラムでも解説しておりますが、「期間の定めのある雇用契約」か、それとも、「期間の定めのない雇用契約」とであるかで第1段目のご回答が変わってきます。
雇用の定めのない雇用契約は、通常、何月何日から何月何日までの期間の定めのない契約で、正社員の形が多いです。
その際、雇用契約の定めのない雇用契約の場合には、正社員と同様に、退職にあたっては、民法627条1項によれば、14日経過後には退職ができますので、退職自体は、あまり問題となりません。言い換えると、14日経過後には、退職ができます。退職自体はあまり心配となることもありません。
その一方で、「期間の定めのある雇用契約」の場合には、契約期間の途中で退職は原則とできません。

「参考条文
民法627条1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」

その上で、契約期間の途中での退職は、「やむを得ない理由」が必要となります。
やむを得ない理由の具体例としましては、「体調不良」「親御さんの介護」などがあたります(民法628条1項)

ご依頼者のほとんどケースでは、「体調不良」のケースが多いです。
ここまででまとめますと、派遣社員の場合で、契約期間のある場合には、原則として、「やむを得ない理由」が必要となりますので、退職自体で揉めた場合には、「体調不良」等の理由が必要となります。余談となりますが、「やむを得ない理由」による退職は「契約社員」の場合でも同様となります。
ご依頼にあたりましては、雇用契約があるか、ないかによってアドバイスは変わりますので、雇用条件明示書件雇入通知書(雇用契約書)を事前にご確認頂けると幸いでございます。

「参照条文
民法628条1項
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」

2.派遣社員が退職するには、損害賠償が発生するか?

次に、「派遣社員が退職する場合には、損害賠償が発生するか」というご質問についてご回答をさせて頂きたいと考えております。
まず、損害賠償が発生するケースについて、ご説明させて頂きます。
損賠賠償が発生するのは、雇用契約に債務不履行があった場合になります。例えば、引継ぎ不十分であったケースや無断欠勤があった場合などが考えられます。
その際、「退職したことで会社の売り上げが下がった場合には、損賠賠償が発生しますか」というご質問を頂くことが多いです。
法律的にご回答をすると、退職と売り上げが低下したこととの間に、因果関係が認められないと考えます。

一般常識的に回答すれば、人の不足は経営上(経営者)の問題であって、退職者の責任として問われるのは筋違いだと思います。
ですから、「退職したことで会社の売り上げが下がった場合でも、損害賠償責任は発生しない」と考えます。私の経験から話をするとそれほど心配はしなくて良いかと思います。

3.まとめ

1. 派遣社員でも退職できますか?

期間の定めない雇用契約、例えば正社員であれば問題なく退職できます。
期間の定めのある雇用契約、例えば契約社員の場合には、やむをない理由が必要ありますので、退職できるかどうかについては、改めて、担当弁護士までご相談ください。

2. 損害賠償が発生するか

退職したことで会社の売り上げが下がったとしても、退職者個人に請求するのは難しいと考えます。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。